STORY 2
週末と月曜の夜、日中はカフェsumuだった場所がバーになる。女性が一人でカウンターに立ってお客さんを迎えるそのお店は、GLUTTON BAR K(グルトンバーケー)という。
窓から見える灯りに誘われて、楽しそうな女性客に惹かれて、ドアを開けてみると、そこにはおいしそうなお酒と料理。
カウンターに立つのは、バーを切り盛りするSさん。日中は、こちらのカフェsumuのアルバイトをしながら、夜は間借りでバーを開いている。
Sさんは、以前からお店をやりたいという夢があったという。
「娘が大学生になり、子育ても手が離れてきて、お客さんにおもてなししたいなぁって、ふと思ったのです。そして、実際にお店をやると決まったときに、コンセプトなどを決めていきました」
一人ひとりにちゃんと向き合いたい
「女性がひとりで切り盛りするお店に惹かれていました。
そうなると、お店の形は自然とカウンターでお客さんを迎え入れるバーがいいなと思いました。
一人ひとりに向き合いたいんです。
お客さん一人ひとりを見ることができて、その人に合った接客がしたいんです。この人はこんなものが好き、こういう風にするといいなっていうことをちゃんとお客さんを見て接していきたい。
やっぱり大きいお店だと、決められていることもあって、なかなか自由に動けないこともあると思います。お客さんに合わせて自由に柔軟に動けるかたちがいいいいなと思っています」
私と合う人に来てほしい
「今ってお店側もお客さんを選ぶ時代だと思うんですよ。
お客さんも楽しんできてほしい。だから、誰にでも来てほしいというわけじゃなくて、私と合う人に来てほしい」
今の時代、ただいいものを提供すればいいというわけじゃない。客とお店、お互いのマッチングがあってこそ、そこでおいしいもの以上の何かが生まれていくのかもしれない。
飲食店は、おいしいものを食べにくる場所であると同時に、人と人とが出会う場所でもある。
ただ、おいしい料理やお酒を飲み食べ、おしゃれな空間で味わうだけではなく、一期一会の場から生まれるもの。以前からの知り合いであっても、何か新しい気づきがあったり、知り合いを通して新たな出会いが生まれたりもする。そんな出会いが生まれるには、お互いの相性も大事だ。
「第三の場」をつくりたい
「ここで出会った人たちが一緒に仕事したり、ご縁を繋いだりしてくれたらうれしいなって思っています。
お客さん同士の懸け橋になるような場となりたい。
私はこれを『第三の場』って言っています」
家庭とも職場とも違う、もう一つの場。そんなものを提供したい。
「正直に言うと、私はどこかで何十年も料理の修行をしてきたわけでもなければ、ソムリエでもありません。普通の主婦です。もちろん、おいしいお酒と料理を提供することに努力は惜しまないつもりですけど。お店のありたい姿としては、第三の場となってお客さん同士の懸け橋となることです。
おいしいお料理やお酒はもちろん、提供したいと思っていますが、何よりも大事にしたいのはお客さんとの関係性です。
この前も、お客さん同士でゴルフに行ったり、今度行こうって話になったり。先日はこちらによく来てくださっているシェフの方のお店に、お客さんがお弁当を注文してくれたり。そんなことがとってもうれしいです。
そんなふうにご縁をつないでいけたらいいなって思います」
間借りをきっかけにお店をやるようになり、次の自店舗を
カフェsumuのスペースを使って、バーをやるようになったきっかけは、sumuで一緒にアルバイトをしていた学生の高柳さんが先に間借りで、お店を始めたことだった。
「お店をずっとやりたいなって思っていたら、すでに高柳さんが間借りでカヌレのお店をやっているのを見ていいなって思って、そこからオーナーと社長にお願いしました」
15年ほど前から少しずつ温めてきた夢。女性が一人で切り盛りするお店を見て回りながら、自分がやるとしたらどんなかたちがいいかをずっと考えてきた。ときには、店主の方にお話を聞いたり、相談してみたり。
カフェsumuのアルバイトに入ったのも、ゆくゆくは自分のお店を持ちたい、という想いがあった。
自分の子どもと同じような年齢の高柳さんがすでにお店を始めているのを見て、私も、と思ったという。
「私は私のやれる範囲でやる」と決めて、「メニューは、お酒とおつまみとなるちょっとしたお食事を出すことに。お客さんは一晩にこれくらい来るといいかな」とメニューや目標とする客数などを少しずつ考えていき、2021年12月に間借りでお店を始めた。
毎週土曜のオープン時には、Sさんの知人を介して常連が集まるようになり、来店客でにぎわうようになった。そしてオープンから半年がたたないうちに、本格的に自店舗をオープンする話が出てきた。
素敵だなと思っていたお店に行ってみたら、あれよという間に、店主とお店を借りる話になっていった。「これまで聞いてきたお店をやろうとしている人のとんとん拍子ってこういうことなんだなって」とSさん自身もおどろいているという。そのお店の店主は、別のお店に移転オープンを予定していたらしく、次にそのお店を借りる人を探していたそうだ。
自店舗オープンは2022年夏の予定だが、世界情勢の影響もあり、調整中だ。
「今このスタイルでやっているのとはまた違うと思います。不安なことも多々ありますが、楽しみの方が大きいです。
間借りをしていたからこそ、こんな風に自分のお店を持つことにもつながっていけたのかなって思います。私のペースで無理をせずやっていきます」
自分の身の丈で自分のペースでやれる間借りだからこそ、お店を続けられて、自店舗のオープンにもつながっていくのかもしれない。お店のかたちは最初からあるものではなく、お客さんと少しずつ作り上げていくもの。そんなことができるのが間借りの魅力だ。
GLUTTON BAR
営業日:毎週土・日・月 18:30~23:00(22:30ラストオーダー)
お店の詳しい情報については、Instagramをチェック。
取材・文 梅澤杏祐実