STORY 1
仕事終わりに、飲んだときのシメに食べたくなるラーメン屋さんがある。
煮干しラーメン専門店「だるまや」だ。
だるまやは、2021年3月のコロナ禍にオープンした。
「元々、駅前でお店を出すなんて考えていませんでした」と話す佐々木さん。
千葉県のラーメン店で10年ほど修行し、地元福井でお店を出そうと物件を探してきたが、「ここ」という場所がなかなか見つからなかった。しかしあるとき、共通の知人を通じて、福井木守り舎の田邊さんから間借りの話を聞くことになって、当初は思いもよらなかった形でのお店のオープンとなった。
「昼間はカフェでおしゃれなお店だからラーメン屋とのバランスが悪いかなと若干、戸惑いはありましたが、駅前ということもあり、逆にこの場所を盛り上げたいと思いました。
これから新幹線もくるし、県外のお客さんにも食べてもらいたいなと思っています。
間借りでさせてもらうことにしたのは、コロナ禍というのが大きかったですね。
お店をやるための初期投資、借金を背負うリスクを考えたら、間借りというのはありがたかったです。だってすでにお店をやるための道具はそろっているのですから」
すでにお店をやるための冷蔵庫や機材などで200万円を投資していた。
今は「これからビル」の3階に冷蔵庫を設置させてもらい、お店を運営する。
厨房の事情は通常のラーメン店とはまるで違うが、基本的な調理はできる。普通のラーメン屋さんのように、ゆでた水をこぼすことはできないが、それもだんだん慣れてきた。
駅前で夜営業、煮干しのラーメンは意外にブルーオーシャン?
火曜から金曜の週4日、1日4時間ほどの営業でできることを考えると、煮干しでダシを取るラーメンに行きついた。
福井ではなかなか煮干しのラーメン専門店はなかったというのもある。福井駅前にはラーメン専門店も数少なく、深夜に営業しているところもなかなかない。
仕事が終わってから、あるいは「飲んだときのシメ」に行けるお店が数えるほどしかないなかで、「思った以上のお客さんに来てもらっている」と手ごたえを感じている。
多いときで1日80人の来店があり、4時間ほど行列が続いた。今は、若干客足も落ち着いて、常連客を中心に1日平均40人程度の来店がある。なかでも女性の来客は平均して20%と、ラーメン店にしては高い。場所がカフェということもあり、女性が来やすいという利点も生かしている。
10年間修行したお店は、「大つけ麺博」で日本一を獲得する、ラーメン好きには知らない人はいないというほどの人気店。人気店での修行経験と、佐々木さん自身が追求してきた味を生かして、唯一無二の煮干しのダシラーメンが生まれた。
福井ではなかなかお目にかかれない煮干しのダシ専門のラーメン店。間借りでお店をやるうえで現実的に考えたうえでの煮干しだったとはいえ、福井での「ブルーオーシャン」に飛び込むうえでは試行錯誤の連続だった。
煮干しラーメンは当初、「安全路線」を狙ってあっさりめの味でいこうとしたものの、やってみると、お客さんの反応はもっと煮干しのえぐみを求めているようだった。
来店してくれたお客さんの声を聞きながら、求める味に近づけていく。オープンから1年、「がっつり煮干し」のラーメンができた。
カフェで間借り、ラーメンは意外に女性にとってのポジティブ材料に
昼間はカフェというおしゃれな場も当初はラーメン店としては、「大丈夫かな?」という気もしたが、女性客が安心して来られる材料になっている。
女性の来店率20%という、ラーメン店としては異例の高倍率だ。女性客が来ると、駅前という場所の特性もあって、よりゆったりした雰囲気も高まっていくようだ。そういう中でこんなコンセプトが生まれた。
「ラーメンを味わって食べたいというお客さんに来てもらうこと」
修行をしていた時は、「とにかく売り上げを上げなくては」と回転率を上げるために動いてきたが、自店舗となると、売上もコンセプトも、そのためのオペレーションも自分で決めることができる。
元々はカフェという場だからこそ、2人組の女性客が来て食べた後もゆっくりできる空間もすでにある。回転率を上げることが必ずしもお店の目的ではないので、次のお客さんのことを気にせずともラーメンを味わい、店内でおしゃべりができる雰囲気にしている。
だが、店内ではカフェにある間仕切りを活用し、並んでいるお客さんが食べているお客さんには見えないようにして、ラーメンをゆっくり味わってもらうようにもしている。
ゆっくり食べて、ゆったり滞在してもらうというのは、歩いて移動する駅前という場所ならではだ。
お店同士のつながりからお店を紹介し合う循環
また、駅前の特徴として、お店同士のつながりも欠かせない。歩いて行ける場所に同じように個人経営のお店があり、間借りでもお店を構えれば、自然と横のつながりは生まれていく。
「近くに飲み屋さんが2店舗あり、”飲んだ後のシメに”と紹介してくれます。『この辺にラーメン屋さんないか?』とお客さんに聞かれたときにうちを紹介してくれているようで、とても助かっていますね」
お店同士のつながりは、お客同士のつながりにもなり、お店がお客さんを紹介してくれ、客の反応がいいと、お互いにとってよりよい循環が生まれていくようだ。
飲食業の先輩からのアドバイス、業者の紹介
間借りの提案があった田邊さんからのアドバイスも心強い。飲食業の先輩として、料理、お店をやるうえでの考え方など信用できて、参考になることが多い。
「新メニューができたらまず田邊さんに食べて、意見をもらおうって思いますね。田邊さんから言われることは、自分でも気にしていたことだったり、弱いなって思っていた部分だったりして、言われるとさすがだなと思いますね。
また、オーブンを使った低温調理についても今回初めて教えていただくことがあり、ローストビーフの調理の仕方などこれまで知らなかった料理法についても知ることが出k智慧非常に参考になりますね。
あとは、いい業者を紹介してもらったりしてすごくありがたいです。
あとはすでに飲食をやるうえでの店内の機材がそろっているので、参考になりますね。一から探すのは大変です。飲食をやるうえで何が必要で、どのくらいのものがあったらいいのか、すごく参考になります。これまで修行してきたお店でももちろん、見てはきたのですが、やはり従業員目線なので、実際にここで店主になってやるのは大きく違います」
間借りでお店をやってみたい人に
「チャレンジしたい人にとっては、間借りってすごくいいことだなと思います。
1回やってみて今やっているスタイルが本当にこれでいいのかなっていうやり直しが何度もできるんですね。
実験できる、こういう場所があるだけでも修行にもなる。週1だけの営業だったとしてもやってみることで本格的にやる足かせになる。
「飲食業をやるうえで、お客さんの反応をみられるってすごくありがたいことだと思います。
僕は県からの助成金を使って、お店をオープンすることができました。ここならば、お店をやるうえで失敗したとしてもプラマイゼロ。どこかでお店を新たに借りてやろうとすると、初期投資だけで大きな費用がかかってしまうので、軌道が乗るまで間借りでやるのもいいのではないかなと思います。
間借り営業により、お客さんの反応を見ながら調理法や接客などを変えていくことや少しずつ常連さんを増やせたことは、開業のスタートとしてはすごくよかったと思っています」
お店の基本情報
だるまや
営業時間:火曜 11:30~14:00、18:00~24:00、水曜~金曜 19:00~25:00
定休日:土日月
店主 佐々木陽介さん
県外で過ごした学生時代、ラーメン屋さんを歩き回ってラーメンが大好きになり、27歳で脱サラしてラーメン店に修行する。10年ほど、千葉の超人気店で従業員として働いた後、約半年間、地元の福井と千葉を行き来してラーメン店をオープンする準備を始める。ここという場所がなかなか見つからない中、たまたま共通の知人を介して福井木守り舎の田邊さんから間借りの提案を受けて、2021年3月にグランドオープンした。
取材・文 梅澤杏祐実